終わりなき人体汚染 「テクスト」版 2
http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65740745.html
【チェチェルスク地区病院】
チェチェルスク地区の人々の身体には、食品を通して放射能が入り込んでいます。その結果、人体にどのような影響が起きるのか、各国の医学者たちが盛んに現地を訪れ、研究を進めています。
信州大学医学部講師の小池医師たちは、5年前から毎年この地区を訪れ、住民たちの健康診断を続けてきました。
「この人は、確か前に来られた人ですね」
【信州大学 医学部 小池健一講師】
「来なかった?」~返事あって~
「ああそうですね。覚えてます」
住民たちの体内に、放射能がどれだけ蓄積しているかを測定し、健康状態との関係を調べています。
「そうですね、1023マイクロキュリーで37890…(※聞き取れず)、非常に高い値ですね。」
「日本人の25倍くらいの高さですね」
小池医師たちは、特に住民たちの免疫、つまり身体の抵抗力の変化に注目しています。
放射能による長期間の被曝によって、免疫の異常が起き、それが頭痛や疲労感などの症状を引き起こしているのではないかと考えたのです。
【ナチュラルキラー細胞】
血液中の免疫細胞の一つ、ナチュラルキラー細胞の働きを調べました。

汚染されていない地域と比べると、この地区では、正常な免疫機能の範囲から大きく外れる人たちが数多くいることがわかります。
【信州大学 医学部 小池健一講師】
「今までに、ナチュラルキラー細胞の働きが、その、弱くなるということが、どうも白血病の前の段階で見られるという、そういうデータがあります。ですから、あのー、こういうナチュラルキラー細胞に異常が出たような方が、やはり今後、そのー、抵抗力だけではなくて、やはり、がんであるとか白血病であるとか、そういうような病気を1人か2人でも出てくるんであれば、やはりこれは、あのー大きな、あのー問題になってくるだろうと思いますね」
免疫の異常は、ウイルスや細菌に対する身体の抵抗力を弱め、様々な病気を誘発します。小池医師たちは、住民たちの健康状態の変化を、将来にわたって見続ける必要があると考えています。
ベラルーシ政府は、水道やガスなどの汚染対策は行う予定ですが、安全な食品の供給までは考えていません。
また、安全な食品は、あっても値段が高いため、チェチェルスク地区の住民たちは、このまま自給自足の生活を続けていかざるを得ないのです。
【レーナさんの姉 アンナさん】
「私たちは国から見放されたんです。」
「汚染された食品を食べ続けてベラルーシが滅んでも、」
「地球全体には何の影響もないでしょう。ひとつの民族が消えたという程度ですよ」
汚染された食品を食べ続けることで、今後、身体に何が起きるのか、住民たちの不安が次第に高まっています。
チェチェルスク地区と同じような生活を強いられている人々は、ベラルーシ全体で35万人にものぼります。
【キエフ脳神経外科研究所】
キエフにある、脳神経外科研究所。
ここでは、重い精神症状に悩む事故処理員500人以上について、検査と治療を続けてきました。 その結果、事故処理員たちの脳に異変が起きていることが明らかになってきました。
「この患者は脳に障害があり、うまく話せません」
「彼は…まだ少ない…これから…たくさんある…まだ少ない…」
「自分ではちゃんと話しているつもりなのです」
「210大隊…苦しい…わからない 何を話せばいい…よくなる」
事故のあった年に、緊急部隊の一員として動員されたこの患者は、相手の言うことは理解できますが、自分で話そうとすると、意図しない言葉が出てしまうのです。
脳は、これまで人間の身体の中で、最も放射線に対する抵抗力が強いと言われてきました。
このため、事故処理員たちに起きている、様々な精神症状の原因は、主にストレスによるもので、脳がチェルノブイリの放射能によってダメージを受けたわけではないとされてきました。
【モスクワ診断外科研究所】
しかし、複数の機関による最新の研究が、その定説を覆そうとしています。
モスクワ診断外科研究所では、精神症状を抱える事故処理員たちの脳の状態を詳しく研究しています。
今、脳の中の、血液の流れを調べています。
これは、上から見た脳の断面です。白い部分は血液の流れが活発です。

この患者は、脳の左側に血液の流れが悪い部分があります。
【放射線医学部 ニーナ・ホロドワ 上級研究員】
「精神症状のある事故処理員の患者、173人を検査したところ、程度の差こそあれ、全員に異常が発見されました。」
「彼らは、脳の血液の流れが悪いだけでなく、神経細胞の働きまでが低下しています」

脳の状態を更に詳しく調べた結果、事故処理員たちの脳に、萎縮が見られることがわかってきました。
写真の白い部分は空洞、灰色の部分には神経細胞が集まっています。

40代後半の、この事故処理員の場合、空洞を表す白い部分が脳の中心に大きく広がり、脳全体が萎縮しています。

同年代の健康な人の脳と比べてみると、神経細胞がつまっている灰色の部分が遥かに少なく、神経細胞が死んでしまったことを示しています。
【キエフ脳神経外科研究所】
神経細胞の死滅は、放射能によって引き起こされたのでしょうか。
キエフ脳神経外科研究所では、放射能による被曝で神経細胞の死滅が起きるかどうか、ラットを使って実験しています。

チェルノブイリ原発事故で放出されたものと同じ種類の放射性物質を餌に混ぜて、ラットに与えます。一ヶ月間、
この餌を食べ続けることで、ラットは、人間に置き換えれば、事故処理員とほぼ同じ量の被曝を受けることになります。
一ヵ月後、ラットの脳の神経細胞にどのような変化が起きているか、顕微鏡で詳しく調べます。

被曝したラットの神経細胞は、輪郭がはっきりせず、ぼやけて見えます。

被曝していないラットと比べて見ると、あきらかな差が見られ、神経細胞が死滅したことを示しています。
【キエフ脳神経外科研究所 アレクサンドル・ビニツキー教授】
「死亡した事故処理員の脳を解剖したところ、放射性物質が蓄積していました。脳は、放射能に対する抵抗力が強いという定説は覆ったのです。」 (引用注:脳には不飽和脂質が多いので、活性酸素に弱い。アルツハイマーやスポンジ脳症も活性酸素の脳内発生が原因だと思われる。そして、放射線は大量の活性酸素を生じさせる)
「脳の破壊が、様々な精神症状や、身体の病気の原因だったのです。」
「作業中に大量に吸い込んだ放射性物質が、脳にまで入り込み、まるで、ミクロの爆弾のように、神経細胞を破壊していったと考えられます」
ビニツキー教授の考えはこうです。
事故処理員達が、作業中に大量に吸い込んだ放射能が、血液によって脳の中にまで運び込まれます。
そして、放射線を周囲の神経細胞に浴びせながら、少しずつ破壊していくのです。
【神経細胞の壊死】

破壊された神経細胞は、元に戻ることはありません。身体の中に入った放射能が多いほど、脳の破壊が進み、やがて脳の機能が失われていきます。
脳の最も外側が破壊されると、知的な作業が出来なくなったり、記憶力が低下します。

特に影響を受けやすいのは、視床下部や脳幹など中心部で、ここが破壊されると、食欲や性欲が失われたり、疲労感や脱力感に見舞われます。
また、内臓の働きが悪くなったり、手や足の動きを上手くコントロール出来なくなるなど、身体全体に影響が出ます。いずれも事故処理員によくある症状です。
この冬、ウラジミルさんの病状は、更に悪化していました。簡単な計算も間違えるようになり、1人では買い物も出来なくなってしまいました。
被ばく作業員に知的障害、MRI検査で前頭葉に空洞…ドキュメンタリ「終わりなき人体汚染〜チェルノブイリ事故から10年〜」文字おこし(4・最終回)
http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65741268.html
ウラジミルさんは、再び脳の専門病院を訪ね、詳しい検査を受けることになりました。
脳の状態に問題はないのか。MRIという画像診断装置を使って、詳しい検査を受けます。

その結果、脳に異常が発見されました。

前頭葉と呼ばれる、脳の前の部分に白い塊があります。神経細胞が死滅したあとです。前頭葉は、計算や思考など、創造的な働きを担う中枢です。ウラジミルさんの知的障害の原因は、ここにあるのではないかと医師たちは考えています。
脳の更に深い部分にも、神経細胞が死滅したあとがありました。ウラジミルさんの疲労感や脱力感の原因は、これではないかと診断されました。
「検査の結果、ご主人の脳に異常が発見されました。」
「一連の症状がチェルノブイリ事故の後、始まったことを考えれば、」
「放射能の影響とみるべきでしょう。」
「放射能が脳の中に入り込み、脳を破壊していったのです。」
「簡単に治せるものではありません。あんな大きな病巣がありながら、」
「大事に至らなかったのが不思議なくらいです。」
「もっと拡大していたら助からなかったでしょう」
「気を落とさないでください」
「大丈夫です。涙を見せたら夫にショックを与えてしまいます」

チェルノブイリの放射能が、10年もの間、ウラジミルさんの脳を、少しずつ確実に破壊していたのです。
妻のタチアナさんは、診断の結果を夫に告げず、残された身体の機能を出来るだけ維持していく生活をしようと決意しました。
最近、チェルノブイリ原発事故による、人体への汚染について、またひとつ、新しい事実が発見されました。

汚染が5キュリー以下で、人体への影響が比較的少ないとされてきた黄色の地域に、赤の高濃度汚染地域に匹敵する人体汚染が起きていることが分かったのです。

チェルノブイリ原発の西。【ポレーシア地方】ベラルーシとウクライナの国境沿いに広がるポレーシア地方は、プリピャチ川沿いに開け、広大な森と豊かな水に恵まれた農村地域です。

【ゼルジンスク村】ポレーシア地方にある、人口1000人足らずの村、ゼルジンスクに、事故後初めて検診車がやってきました。
汚染の高い地域から巡回してきたため、この村の人々は、事故後10年目にしてようやく検診を受けることになったのです。その結果、意外な事実が明らかになりました。

ゼルジンスク村の人々の体内に蓄積された放射能の量が、極めて高かったのです。
【ゴメリ特別病院検診部 ナターシャ・ジノビッチ婦長】
「驚きましたよ。例外なく皆被曝量が高いのですから。」
「ここは土地の汚染が低い地域のはずなのに、住民の被曝量は最も汚染の高い地域と変わらないのです。どうしてこのような高い数値が出たのか、よくわかりません」
なぜ、この村の人たちの体内に、多くの放射能が蓄積されたのでしょうか。
その原因を突き止めるため、ベラルーシ国立土壌研究所のグループが調査を続けています。
その結果、原因解明の鍵は、土にあるのではないかと見ています。一般に、土に含まれる粘土分は、放射能を取り込んで、外に逃がさない性質を持っています。
ところが、この村の土には粘土分が少なく、ほとんどが粒子の粗い泥炭です。
このため、放射能が植物に急速に吸収されやすいというのです。
【ベラルーシ国立土壌研究所】
実際に、ゼルジンスク村の土の放射能を測定してみました。
結果は、1068ベクレル。汚染は、それほど高くありません。
しかし、牧草の放射能は、土の15倍、15544ベクレルにも及んでいます。
この村では、放射能が、土よりも牧草に大量に蓄積されていました。その結果、この村に降り注いだ放射能は、土から牧草へ、そして牧草から牛へ、
さらにその牛が出す牛乳から人間へと、次々と濃縮されていったのです。
ゼルジンスク村の人々は、汚染の高い地域と同じレベルの被曝を、この10年間受け続けていたのです。
調査の結果、この村と同じ性質の土がポレーシア地方全体に広がり、およそ1万平方キロ、チェルノブイリ原発事故による全ての汚染地域の1割近くに達することが分かりました。
ベラルーシ国立土壌研究所のグループは、人体への影響という視点から見たとき、放射能汚染地図が大きく書き換えられることになると警告しています。
チェルノブイリ原発事故から10年。新しい放射能汚染の姿が見え始めています。放射能が人体に何を引き起こすのか、その実態の解明は、まだ始まったばかりです。【終わりなき人体汚染 ~チェルノブイリ事故から10年~】
(文字おこし、完)
このエントリーは有志の方にお手伝いいただきました。ありがとうございました。
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危険地域から避難できれば一番いいのですが、どこにいたとしても、なるべく汚染されていない食事を摂ることと、早めにそして持続的に抗酸化剤を摂っておくことが防御になります。
by oninomae | 2011-12-24 00:03 | 放射能・ラジオハザード