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ベクテルとアネンバーグの登場 by 広瀬隆

ベクテルとアネンバーグの登場

はっきりしているのは、一八八八年にハンティントンからチェサピーク・オハイオ鉄道の支配権を奪う新時代の鉄道王ジョン・ピアポント(J・P)・モルガンが登場したことである。

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またクロッカーがサンフランシスコに設立した銀行がクロッカー・ナショナル銀行と改称され、息子と孫が頭取に就任して一九五六年まで経営していたが、その年に他行と合併してクロッカー・アングロ・ナショナル銀行となった。そして一九〇六年のサンフランシスコ大地震の中からこの大都市に台頭したカリフォルニア財閥が、世界一の建設業者ベクテル・ファミリーだった。

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ハンティントンが死んだ年に生まれ、ハンティントンの生まれかわりと言われたベクテル・グループ総帥スティーヴン(シュテフェン)・ベクテル[Stephen David Bechtel, Sr.,1900-1989]は、ベルリンの壁崩壊前、一九八九年にこの世を去るまで、クロッカー・アングロ・ナショナル銀行重役、サザン・パシフィック鉄道重役、J.P.モルガン重役、スタンフォード大学理事をつとめ、西部の鉄道四人組の遺産のすべてを受け継いだ男である

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共和党の資金源ベクテル社は中東の王室を友として、全世界の石油メジャー精製プラントのほとんどを建設し、原子力発電所の半分を建設し、石炭火力発電所と大型ダムを建設してきた。ひと握りの幹部重役とベクテル・ファミリーが株券を持つ株式非公開の同族会社であるため、実態は闇の中にある。

アメリカ政財界の秘密結社と言われるサンフランシスコのボヘミアン・クラブで森の中に政財界の大物を集め、クラブの会員に大統領候補時代のリチヤード・ニクソンと州知事ロナルド・レーガンの名があった。こうして共和党の大統領をチェスの駒のように指で動かすほどの力を持つベクテル・ファミリーである。

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一方、四人組がつくり上げたセントラル&サザン・パシフィック鉄道シンジケートを一九〇一年に買収支配したのが、J・P・モルガンたちと覇を競った鉄道四天王の一人エドワード・ハリマン[1848–1909]だった。
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ユニオン・パシフィック鉄道社長として君臨し、のちに息子アヴェレル・ハリマンが政界に乗り込み、ブッシュ・ファミリーを拾い上げる。

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一九九六年にはユニオン・パシフィックサザン・パシフィックを買収し、ベクテルと一体になって動く資本となっているのである。

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1984 Cabinet - Class Photo. 1/20/84.
Front row : Donald Regan, Secretary of the Treasury; Vice President Bush; President Reagan; George Shultz, Secretary of State; Caspar Weinberger, Secretary of Defense
Second row : Terrel Bell, Secretary of Education; Jeane Kirkpatrick, U.S. Representative to the United Nations; David Stockman, Director, Office of Management & Budget; William French Smith, Attorney General; Elizabeth Dole, Secretary of Transportation; Donald Hodel, Secretary of Energy; Margaret Heckler, Secretary of Health & Human Services
Third row : John Block, Secretary of Agriculture; Raymond Donovan, Secretary of Labor; Malcolm Baldrige, Secretary of Commerce; Samuel Pierce, Secretary of Housing & Urban Development; William Clark, Secretary of the Interior; William Casey, Director, Central Intelligence Agency; Edwin Meese, III, Counselor to the President; William Brock, U.S. Trade Representative


そのベクテル・グループが、レーガン政権の国務長官ジョージ・シュルツと、国防長官キャスパー・ワインバーガーを生み出した当時、シュルツのスピーチライターとして国務省の外交政策を取り仕切ったのが、ロバート・ケイガンだった。
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彼が九七年にビル・クリストルと組んで、新保守主義のシンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクト」を設立し、二〇〇三年のイラク攻撃を煽動したのだ。
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国連を無視せよと激しい口調で語る彼は、クリントン政権時代から、先制攻撃によってサダム・フセインを排除しろと主張する好戦的シオニストだった。つまり新保守主義やイラク先制攻撃必要論(通称ブッシュ・ドクトリン)が、ブッシュ政権によって生まれた戦略だと思い込むのは、ケイガン自身が言うようにメディアがつくり上げた歴史的な誤謬である。

ケイガンはヨーロッパではカガン、ロシアでは独裁者スターリンの第三夫人カガノヴィッチ一族と同じである。

世界に断りなく九八年末にイラクの首都バグダッドヘのミサイル攻撃を仕掛けたクリントン政権は、ケイガンの主張を実行に移したが、
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それ以前に彼らの活動は、冷戦時代に東西ドイツの核ミサイル配備という地獄の瀬戸際まで人類を連れ込んだレーガン時代から顕著になっていた。ソ連攻撃をスターリン一派が主張するとは「矛盾」(「」は引用者)もはなはだしいが、第三夫人の兄ラーザリ・カガノヴィッチはソ連で二〇〇〇万人を粛清して"クレムリンの狼"と呼ばれ、ソ連が崩壊した一九九一年に世を去った共産党幹部のユダヤ人であった。
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シュルツとワインバーガーは二人とも、レーガン政権になって登場したのではなく、ニクソン政権の労働長官と保健教育福祉長官として政界に乗り出し、
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Richard Kleindienst is standing in the back row behind and to the immediate right of President Nixon at the center of this picture taken of the President and his Cabinet less than a year before Kleindienst resigned his office. Pictured: Front Row: Donald Rumsfeld, Sec. of Trasportation John Volpe, Sec. of Commerce Peter Peterson, Sec. of Defense Melvin Laird, Richard M. Nixon, Sec. of State William Rogers, Sec. of the Interior Rogers C.B. Morton, Sec. of HEW Elliot Richardson, Director of OMB Caspar Weinberger. Back Row: Robert Finch, Sec. of HUD George Romney, Sec. of Agriculture Earl Butz, Sec. of the Treasury George Shultz, Vice President Spiro Agnew, Attorney General Richard Kleindienst, Sec. of Labor James Hodgson, Ambassador at large David Kennedy, Ambassador to the UN George Bush. White House Photo Office Collection, 6-16-1972.

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それぞれベクテルの幹部となってから、レーガン政権の要職を占めた。


このように一九八〇年代からレーガン~シュルツの保守派グループに、新保守主義のケイガン~クリストルのユダヤ人グループが加わった事情を説明するのは、大富豪アネンバーグの存在である。鍵はニクソン時代にある。

二〇〇二年十月に、大衆誌の発刊者で大富豪のウォルター・アネンバーグが九十四歳でこの世を去った。
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"フォーブス"の富豪リストで資産四〇億ドル、金額では第四二位とされたが、カリフォルニア共和党政界の黒幕としての実力は、群を抜くものがあった。

ミシガン湖畔にある穀物と石炭の集散地ミルウォーキーに生まれたウォルター・アネンバーグは、父モーゼスと共にニューヨークに移り住み、一九三六年に出版業者の父が共和党のバイブルとされた新聞"フィラデルフィア・インクワイアラー"を買収した時から、共和党の黒幕としての人生が始まった。

父の後を継いだウォルターは四四年に若者向けの雑誌を発刊して成功をおさめると、ラジオ局とテレビ局の買収に乗り出し、五三年に"TVガイド"を発刊したところ大ヒットとなり、全米最大の部数一七〇〇万部に達する雑誌となった。

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彼が問題を起こすのは、六二年である。ABC放送が制作したニクソン・ドキュメントが赤狩り時代のニクソンを批判したため、アネンバーグは傘下のテレビ局で放映を禁じ、紙上でニクソンを擁護したのである。すでにケネディー時代に入り、大統領の人気がますます高まっていたため、アネンバーグは世論の怒りを買うことになった。

ケネディー暗殺事件後、ジョンソン政権時代の六六年には、ペンシルヴァニア鉄道ニューヨーク・セントラル鉄道が合併するかどうかというアメリカ鉄道史上最大の事件が進行し、全米の注目を集めた。この合併計画を強力に支持したのが、アネンバーグの"フィラデルフィア・インクワイアラー"紙だった。この合併は、一国の経済を左右する出来事だった。ビジネス敗残者ブッシュがなぜ大統領になれたかというミステリーの背後に横たわるこの大事件は、次のようにして起こった。


続く


広瀬隆 アメリカの保守本流 (2003.9.22) 第二章 アメリカの鉄道資本とは何か p94-98より

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by oninomae | 2008-11-16 21:14 | イルミナティ

 

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