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プルトニウム人体実験:ウェルサム記者のレポートについて  by 広瀬隆

プルトニウム人体実験:ウェルサム記者のレポートについて  by 広瀬隆

アメリカ西部ニューメキシコ州の"アルバカーキー・トリビューン"紙のアイリーン・ウェルサム記者は、今(一九九四年)から七年前(一九八七年)から、プルトニウムによる人体実験の追跡調査をはじめた。

それは、気が遠くなるような作業だった。

ニューメキシコ州をご存じない方のために、簡単に著者と地理の関係、本書の読みどころなどについて記しておきたい。

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この州は、その名が示唆している通り、メキシコと国境を接している。そのためアメリカの原爆開発時代に、きわめて危険と考えられる兵器の実験に、メキシコ国境に近い州南部アラモゴードが選ばれて、世界最初の原爆実験がおこなわれた。

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また、州の北部に位置するロスアラモスが、その原爆製造の中心地となった。

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このロスアラモス国立研究所からほんの九〇キロの距離にあるのが、州都アルバカーキーである。その地元の女性記者であるアイリーン・ウェルサムが、ある日、驚くべき調査を開始した。

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そして長い歳月にわたる執拗とも言える熱意の成果が、一九九三年秋から同紙に掲載された、プルトニウム人体実験のレポート」として同紙に連日のように発表された。ほとんどの読者がご存じのように・それがエネルギー省を揺るがし、ホワイトハウスを震憾させ、やがて全米を揺るがす今世紀最大のスキャンダルに発展していった。

九三年一二月のクリスマス前に、エネルギー省はついに、人体実験ホットラインを設置し、過去三〇~四〇年にわたる人体実験に関しての情報を、電話で受け付けることを発表した。ところがそのホットラインは、たちまちパンクしてしまい、一日に一万本の電話がかかるほどの重大な社会問題となった。それは、全米にどれほど多くの人体実験の被害者や関係者が潜在していたかをまざまざと示す事実であった。そしてエネルギー省は、この電話のためだけに、実に数十人のスタッフを配置させなければならなくなった。

--電話は、午前六時三〇分から午後二時三〇分まで、月曜から金曜までいつでも受け付けます--と。

わが国では、その当初の報告の一部が、新聞・テレビなどで紹介された。その一方で、日本は九四年四月にプルトニウムを使った高速増殖炉"もんじゅ"が臨界に達したと、かなり時代遅れの報道に沸き、あるいは、北朝鮮の核疑惑と称してプルトニウムが大問題になってきた。

しかし九四年に、カーター元大統領がその舞台に現われると、核問題解決のためとして、北朝鮮を突然訪問した本当の目的は何であったろうか。

その狙いは、朝鮮半島の南北のほとんどの人が、すでにカーター訪問前から知っていたように、北朝鮮にアメリカ製の原子炉を売りつけることであった。では、アメリカの原子力産業は一体、どのような性格を持っているのか。その作業を統括するエネルギー省の正体は、どこにあるのか。

不思議な因縁ではあるが、本書のウェルサム記者が、アメリカ本土から、人体実験を通して驚異的なアメリカ原子力産業のべールをはがして見せてくれるであろう

実は、その極秘にされてきた人体実験にかけられ、悲劇にあった人びとが"誰であるか"についてだけではなく、さらに踏み込んで、人体実験の暗い背景について、ウェルサム記者の追跡と発見は九四年に入ってからさらに火を得たような情熱とともに続けられ、連日のように"アルバカーキー・トリビューン"に掲載され、今日も続いているのである。

かくして一九九四年八月現在までに、一八人のうち一七人の被験者が、実名で発見されてきた。

この事件報道の大切なことは、太平洋のかなたで、要約された表面的な報道からわれわれ日本人が受けていた印象とはまったく異なり、"プルトニウムが人体に注射された"という単純な事実にあったのではなかった。というのは、このような事実があったそのこと自体は、同様の人体実験を含めて無数に報告され、多くの人が二〇年も前から知っていたからである。プルトニウムを人体に注射することは、確かに凄絶なことであり、信じがたいことである。しかし本書をお読みになれば、読者は次第にこの世でおこなわれた人体実験という出来事の本質に引き込まれてゆき、あたかも恐怖の推理小説を読んでいるような心境に達するであろう。生きた医師たちが登場してくるからである

第一部が患者の物語、第二部が医師たちの物語で成り立っているが、第一部で患者の背後に登場する医師の姿を脳裏に描いてから、第二部を読み進めていただきたい。

地球の政界に君臨した重要人物が、その事件の背後から、次から次へとにじみ出し、歴史の説明を書き替えてしまうからである。ウェルサム記者は、新聞という制約された紙面のなかで、事実関係を簡潔に記してきた。文学作品を書こうと言うなら、無数の形容詞で文章を飾ることもできるだろうが、記事に徹し、実名を列挙し、時には苛立つわれわれを突き放すように、証言にもとづく事実をまとめてきた。それが次第に、われわれを彼女のジャーナリストとしての立場に手招き、魅了してゆくのである。何が目的で、ウェルサム記者が執拗に追跡をしているかという本書全体の主眼と、事件に殉じる精神が手に取るように分ってくる。

特に、患者の人体実験報告がすべて終ったところで、

「私たちはどのようにしてこの患者を発見したか」

という謎解きが、ひとりずつの報告のあとに必ず書かれている。"アルバカーキー・トリビューン"が患者の身許を追跡した手口を明らかにし、人体実験を必死で隠そうとするエネルギー省の高官を、針で刺すように追い詰めてゆくのである。しかもこの闘いが、現在も進行中だと思えば、興奮せずにはいられなくなる。

こうして九四年に、アメリカ西部のごく小さな新聞と言ってもよい"アルバカーキー・トリビューン"のウェルサム記者に、ジャーナリスト最高の栄誉とされるピューリッツァー賞が授与された。それは彼女が、まずその患者の実名を明らかにし、遺族に会い、それにとどまらず、紙上でたびたびエネルギー省に敢然と挑戦状を送りつけ、この人体実験の背後にある壮大な核開発の世界を、初めて明らかにしたからであった。

CIA、FBI、ペンタゴンと並び称せられるきわめて危険な組織「エネルギー省」--かつての原子力委員会に、アメリカ国内でこのように挑戦することは、実のところ想像を絶する行動である。一体、これまでそうした"無謀な行動"のため、何万人の命が犠牲になってきただろうか。メリル・ストリープが主演した映画『シルクウッド』の主人公カレン・シルクウッドという実在の女性が、プルトニウム製造工場の疑惑をめぐって、ついに一九七四年一一月、謎の交通事故で死亡しただけではなかった。

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いや、ウェルサム記者たち"アルバカーキー・トリビューン"の調査グループは、情報公開法を武器にして極秘の文書を公開させることによって、そのシルクウッドの遺体がバラバラにされていた事実を、本書のなかで明らかにした。そしてこの重大事件の舞台であるニューメキシコ州の原爆開発の総本山、ロスアラモス国立研究所で、彼女の内臓などがおそろしい医学調査・化学分析にかけられていたことを、今回突きとめたのだ。

ところが、この空前のレポートが誕生する最初のきっかけは、歴史上の重大な発見の多くがそうであるように、ごくささいな偶然からであった。

彼女が、カートランド空軍基地の空軍兵器研究所がおこなった動物実験に関する"機密報告書"を読んでいた時だった。そのレポートの脚注に、不思議なプルトニウム実験について述べている箇所があった。一体、それは何だろう。何度読み返しても、それは明らかに、動物実験ではなく、人体実験について示唆しているのだ。
最も危険な放射性物質であるプルトニウムを・・・人体に・・・そのようなおそろしいことが、本当にこの世でおこなわれたのであろうか・・・おこなわれたとすれば、いつ、誰が、どこで、そして、誰に・・・
一体、何のために・・・

ウェルサムは早速、ほかの資料に当たり、仲間の助けを借りて、実験に関する情報を集めはじめた。あらゆる学術報告書を読みあさり、やがてエネルギー省を調べまわってさまざまな記録文書を手に入れると、少しずつではあるが、全体像が浮かび上がってきた。信じられないことだが、原爆材料のプルトニウムを使って人体実験がおこなわれたことは間違いがなかった。そして、最大の謎である"誰にプルトニウムが注入されたか"という手掛りが、CAL・・・HP・・・CHIなど、無気味な記号を用いた暗号のような患者番号として、カルテから明らかになってきた。

その数は、一八人であった。

ネズミやモルモットの動物実験と同じように番号をつけられたその人たちは、今、どこにいるのか。生存しているのか・・・それとも・・・

想像するだにおそろしいことだが、人体実験をおこなった医師たちは、間違いなくこの世のものであることが確認された。暗号で記された一八人の所在を突きとめるには、五〇年近く昔まで追跡しなければならない気の遠くなるような作業だったが、ウェルサムは、一八人の人間には少なくとも名前で呼ばれるべき尊厳があると考えた。そして、被害者が誰であるかLを突きとめようと、心に誓ったのである。

プルトニウムを注射された人たちを発見する最初の有力な手掛りが得られたのは、今からほぼ二年前、九二年七月のことであった。

ウェルサムは語っている。

「実験がおこなわれたという事実自体が、私にはショックだった。しかし実際に、被害者の人生をたどり、家族の人たちに会ってみると、さらにそのショックは大きかった」

実は、ウェルサムが"アルバカーキー・トリビューン"に勤めはじめたのは、この調査を開始した一九八七年である。彼女のジャーナリストとしての仕事は、すべてこのプルトニウム人体実験の調査と共にあったと言ってもよい。しかしウェルサムは、アメリカのジャーナリズムでは最高の賞を、ほかにもいくつか受賞している。ニューメキシコ州のパブリック・サービス社がおこなったギャンブルまがいの不動産投機を暴露した一連の記事が、ジャーナリスト協会(The associated Press Managing Editors Associasion)の公益事業部門で受賞したほか、経済記事部門のジョン・ハンコック賞を受賞している。また、ニューメキシコ州における野生生物の乱獲の実態を示す記事は、全国ヘッドライナー賞を受賞している。

また九一年には、一一名のアメリカ人ジャーナリストおよび六名の外国人ジャーナリストとともに、一年間スタンフォード大学で学ぶことができるジョン・S・ナイト特別研究員にも選ばれている。では、本書の主人公が書いた一通の歴史的書簡を紹介してから、アイリーン・ウェルサムの報告に入りたい。

それは奇しくも、われわれ日本人の運命を呪うように、食べ物を放射性物質で汚染して、五〇万人を殺裁しようと計画していた人物、が書いた書簡であった。


アルバカーキー・トリビューン編 広瀬隆訳・解説 プルトニウム人体実験 p22-27より

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続く



参考

Human radiation experiments
http://en.wikipedia.org/wiki/Human_radiation_experiments


プルトニウム wiki


米国での人への医学的実験:その5 若干蛇足
http://ameblo.jp/kane55/entry-10010599870.html

by oninomae | 2008-09-18 22:46 | 放射能・ラジオハザード  

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