八月六日(月)晴 by 黒木雄司

八月六日(月)晴
(前略)
すると、「班長殿!班長殿!」と、自分を起こす者がいる。先ほど勤務交替した田中ではないか。

「班長殿、いま広島に原子爆弾が投下されたと、ニューディリー放送が放送しております。八時十五分に投下されたそうです」

「あ、そうか。やっぱり。うーん。貴様、席をはずしてだれかに言って来たか」と聞くと、

「隊長殿も上山中尉殿もおられます。上山中尉殿が、黒木だけには知らせてやれといわれ、お知らせに参りました」

「有難う。礼をいっておいてくれ」といって、時計を見ると、八時三十二分。広島に落とされて十七分間で、寝ている自分が起こされ知る

おそらく敵機から交信で敵の司令部に、敵の司令部から放送局に、どうしてこんなに早く知らされるのだろう。あるいは放送局側から敵司令部に係員が入り込んで待機していたのだろうか。どうしてまた、すぐ放送ができるのだろうか。まったく感心させられる。成功のときには、時間だけを打電すればすぐ放送できるように打ち合わせずみだったのだろうか。とにかく、三日も前から打ち合わせしておけばできるのだろうか。ふとニューディリー放送は、本当にインドのニューディリーから放送しているのだろうか。案外、米軍の軍司令部内部に放送設備があって放送しているのではないか、と疑いを持った。

(中略)

午後四時、田中が下番して内務班に戻ってきた。報告によれば、
NHKも大本営も、広島の原爆についてはまったく何にも放送しません。ニューディリー放送はもちろんですが、重慶放送も広島に原爆が投下されたことについて、どちらも二度も三度も放送がありましたと。

ふと祖母や叔母や従妹たち、あの大手町九丁目の家で、家の焼けると共に重なり合って倒れたのではと不吉な気もする。なんとかみんな手に手を取って生き延びて欲しい。

黒木雄司 原爆投下は予告されていた 第五航空情報連隊情報室勤務者の記録 p253より

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by oninomae | 2008-08-06 20:28 | ホロコースト  

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