メリル・リンチとブッシュ・ファミリー by 広瀬隆

メリル・リンチとブッシュ・ファミリー by 広瀬隆

前章まで、不可思議な組織が全米を横断し、蜘蛛の巣のように縄張りを張りめぐらしている世界を見てきた。インターネットのウェブ(蜘蛛の巣)ではない。アメリカでは完全にすたれたとみなされる鉄道・鉄鋼の資本が、石炭や電力・石油資本に姿を変え、財閥と一体になって動いているのだ。しかし実際にわれわれが見聞きするウォール街で、鉄道が話題になることはほとんどない。アムトラックの経営破綻という悲惨なニュースがあるばかりだ。鉄道路線の上を走ってきた保守的人脈と共和党は、ウォール街の証券会社や投資銀行、マーチャント・バンカーと具体的にどのように関わり、財閥はどのように資金を政界に貢いでいるのか。現在その華やかな世界で、彼らが何を画策しているのかを見てゆこう。

まず第一に、アメリ力証券ビジネスの巨象は、世界最大の証券会社メリル・リンチ[Merrill Lynch & Co., Inc.]である。一九一五年にチャールズ・メリルエドマンド・リンチが同社を設立したのだ。しかし前年に第一次世界大戦が始まったこの年、ウォール街は二代目金融王のJ.P.モルガンJr.に握られていた。メリル・リンチはその巨大なモルガン金融帝国の足元で、細々と証券投資に踏み出したにすぎなかった。そのような小物が証券界で成功できるはずはない。

ところが成功物語には必ず地下道があるものだ創業者メリルは、創業の三年前にペンシルヴァニア鉄道の副社長サミュエル・チャーチの娘と結婚していた。ウォール街に通じる地下トンネルを完成したアレグザンダー・キャサット社長のもとで経営に参加し、この鉄道の長大な歴史を編纂したサミュエル・チャーチは、鉄鋼王力ーネギーがJ.P.モルガンから受け取った大金のうち、一〇〇〇万ドルを投じて一九〇二年に設立した力ーネギー研究所で、三十年間も所長をつとめた。ペンシルヴァニアの大物だったのである。

この義父を後ろ楯として、チャールズ・メリルが失敗するはずはない。今日、食品チェーンの大手として知られるセーフウェイ・ストアの設立に力を注ぎ、チェーンストア融資を狙った投資が当たって、十年たたずに頭角を現わした。さらに一九三〇年にメリルは、エドワード・ピアースの経営するピアース商会に小売業務部門を売却して、投資銀行に専念することにした。

さてその十年後、事業が軌道に乗ったメリル・リンチは、ピアース商会とキャサット商会を合併して、メリル・リンチ・ピアース・キャサットと改名したのである。このキャサット商会とは、ほかならぬペンシルヴァニア鉄道の名社長アレグザンダー・キャサットの息子ロバートが経営する投資銀行だった。

前章にアレグザンダーの物語を述べたが、
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くわしく書くと、彼の孫娘ドリスの義父ジョゼフ・ウェアが、メリル・リンチ・ピアース・キャサットの重役となり、同時にアヴェレル・ハリマンの経営するW・A・ハリマンの重役でもあった。なぜなら、ジョゼフの姉ルクレチア[Lucretia "Loulie" (Wear) Walker、1874–1961]の夫がW・A・ハリマン社長ジョージ・ハーバート・ウォーカーだったからである。
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この大資本を受け継ぐウォーカーの直系子孫がジョージ・W・ブッシュだったことが、現代人を不幸な時代に連れ込んだのである。


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この寝室物語を要約すると、メリル・リンチが大手投資銀行として第一歩を踏み出せた理由が二つある。第一は、ペンシルヴァニア鉄道のキャサット商会の資本が入ったからである。第二は、ユニオン・パシフィック鉄道のハリマン社の資本が入ったからである全米最大の鉄道二つを携えて、ウォール街で台頭できないはずはない。しかも彼ら一団は閨閥を形成していた。メリル・リンチは、意外にもブッシュ一族の先祖の功によってウォール街で覇を制した世界最大の投資銀行だったのである。メリル・リンチが共和党の資金源となるのは当然である。鉄道重役の息子ドナルド・リーガン[Donald Thomas Regan、1918-2003]がメリル・リンチ会長からレーガン政権の財務長官となったあと、メリル・リンチはブッシュを大統領に押し上げた。

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President Reagan, Ken Adelman, George Shultz, Donald Regan, Richard Perle, Max Kampelman, Paul Nitze, and John Poindexter during staff briefing at Hofdi House, Reykjavik Summit. 10/12/86.

 誤解のないように断っておくが、ブッシュ家がメリル・リンチを育てたのではなく、父ブッシュ大統領の母方の祖父ウォーカーが大物で、ブッシュ家はその遺産に食いついた一族にすぎない。

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九五年にはロスチャイルド財閥の総本山であるロンドンの名門証券会社スミス・ニューコートをメリル・リンチが買収した。フランス家の当主ギイ・ロスチャイルドとイギリス家の当主イヴリン・ロスチャイルドが共同社長だったニューコート・セキュリティーズ(証券)と共同事業を営むのだから、これ以上に強力な証券会社はない。メリル・リンチは単に世界最大となったのではなく、ヨーロッパ上流社会の人脈をそっくり味方につけたのである。これが貧困者を切り捨てる経済中心のグローバリズムが猛進する力となった。彼らは慈善事業で名をあげることには熱心だが、ホームレスを見ても何も感じない人種だった

言い換えれば、クリントン政権~ブッシュ政権は、中東政策に関してユダヤ系最大財閥の言葉に縛られ、ウォール街から人事の圧力を受けるシステムに完全に組み込まれた。これと並行して、ロスチャイルド男爵の近親者セインズベリー家[Sainsbury family]の資金をもって、イギリスにトニー・ブレア政権が誕生したのはそれから二年後の九七年のことだった。ブレアは労働党の羊の皮をかぶった事実上の"保守党の狼"とささやかれ、マーガレット・サッチャーの後継者を自任して財界中心主義を貫き、保守党はまったく旗色が悪くなった。アメリカとイギリスを結ぶ政治的パイプは、これまでの石油・軍事連合に加えて、一層太く強い金融連合を形成した。

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第二に、メリル.リンチと双壁を成す保守本流の証券投資会社は、世界貿易センタービル崩壊で最大の被害を受けたモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターである。ウォール街暗黒の木曜日(一九二九年)の大暴落のあと、銀行倒産が続発して大恐慌に襲われたアメリカで、証券投資に関係しない人まで銀行預金を失ったため、銀行と証券会社を分離するグラス・スティーガル法が施行され、J・P・モルガン(モルガン商会)がモルガン・スタンレーを証券会社として分離独立させたのが一九三五年であった。さらに半世紀以上あと、九七年に同社が投資銀行ディーン・ウィッターと合併して、世界最大級の総合金融会社となったのだ。

ここで、あまり有名ではないディーン・ウィッターをよく見ておく必要がある。その創業はメリル.リンチ創業の前年で、初めはチャールズ・ブライスディーン・ウィッターが組んで設立したブライス・ウィッター商会に起点を持つ。二人は一九二四年に快を分かち、ブライス商会は、ロックフェラー一族スティルマン家が支配するニューヨーク・ナショナル・シティー銀行頭取という大物銀行家チャールズ・ミッチェルをトップに迎えて成長を続けるが
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National City Bank President Charles Mitchell After Acquittal
Original caption: 6/22/1933-New York, NY- Like a returning hero, Charles E. Mitchell, former president of the National City Bank, strolls up Broadway surrounded by friends and business associates who are congratulating him on having been declared "not guilty" of two tax evasion charges. Beside Mitchell is his astute lawyer, Max D. Steuer. The picture was made after the jury returned the verdict, more than 24-hours after having been charged by the judge.

ミッチェルはシカゴの石炭業者の娘婿であり、自分の娘を航空王フレデリック・レントシュラー[Frederick Brant Rentschler、1887-1956]の甥に嫁がせていた。レントシュラーは現代のボーイングとユナイテッド・テクノロジーズとプラット&ホイットニーという三大軍事航空会社を生み育てた男である。

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かくてブライス商会が動かす大きな軍事勢力は、ロスチャイルド財閥の名門投資銀行セリグマン商会[J. & W. Seligman & Co.]の流れを汲むイーストマン・ディロン・ユニオン・セキュリティーズと一九七二年に合併して、ブライス・イーストマン・ディロン[Blythe, Eastman Dillon]となった。

そのユニオン・セキュリティーズから出発してロスチャイルド財閥のソロモン・ブラザース幹部となったウィリアム・サイモン[William Edward Simon、1927-2000]がニクソン政権の財務長官に就任し、のちブライス・イーストマン・ディロンに復帰するのだ。

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ところが、サイモンと共にブライス・イーストマン・ディロン幹部に就任したのが、スコット・ピアース[Scott Pierce II, b. 1930]だった。スコットの姉バーバラジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュという男と結婚し、この時期にブッシュがCIA幹部から長官に出世していった。

ちょうど第一次オイルショックの時代で、原油価格が暴騰して苦境に立たされたサイモンは、中東に流れ込むオイルマネーを取り戻すため、サウジやイランを始めとする中東イスラム諸国に大量の武器・兵器を売り込むことによってドルを還流させる政策を打ち出し、現在まで中東に絶えない紛争の火種をまき続けた

彼と組んだのが、同じニクソン政権の国防長官メルヴィン・レアード[Melvin R. Laird]だ。
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政権発足時からペンタゴンを挑発し、ベトナム戦争の泥沼から手を引くことに抵抗し続けたレアードは、祖母の名をフルダ・ウィッターといった。投資銀行創業者ディーン・ウィッターの叔母である。さらに航空王フレデリックの兄ゴードン・レントシュラー[Gordon S. Rentschler]の妻の連れ子が、ディーン・ウィッター創業者の息子と結婚していたのである。

おそるべき構造と言ってもよい。ブライス・ウィッター集団の一人が戦闘機とエンジンと兵器を生産し、一人がホワイトハウスの全予算を握り、一人が全軍を指揮し、一人がCIA長官となり、一族が二つの投資銀行を動かし、なおまたそこにイスラエルを支援するロスチャイルド財閥が入り込んでいた。

物語はこれからだ。ブライス・イーストマン・ディロンは八〇年にボストン財閥ペイン・ウェバー・ジャクソン・力ーティスに買収され、そのペイン・ウェバーが二〇〇〇年にスイスのUBS[Union Bank of Switzerland:UBS AG]に買収されたが、二〇〇三年現在のUBS傘下にある投資銀行は、この二社だけではない。 

ロスチャイルド財閥のS・G・ウォーバーグディロン・リードのほか、ウェルド・グリューとキダー・ピーボディーも傘下にあり、この大勢の証券エキスパートが一堂に会して仕事をしている。


彼らと血族関係にあるボストン一族の中で"富豪の政治代理人"と呼ばれたのが、一九六〇年の大統領選挙でニクソンと組んで共和党の副大統領候補となったヘンリー・キャボット・ロッジJr.Henry Cabot Lodge Jr.]である。
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このコンビは一般投票の得票でケネディー~ジョンソン組三四二二万票に対し、三四一〇万票という一二万票の僅差で敗れたが、大統領に就任したケネディーは、同じボストン仲間の政敵ロッジを敵に回さず、南ベトナム大使として抜擢し、ロッジのべトナム戦略にはまって民主党自ら墓穴を掘るのである。

キダー・ピーボディーは石炭支配の項に述べた通り、一族が世界最大の石炭会社を生み出したが、ヘンリー・キャボット・ロッジの一族がピーボディー家であり、モルガン家でもあった。

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こうした事実を敢えて縷々述べるのは、アメリカ人が"ならず者国家"や"悪の枢軸"という言葉をもてあそび、兵器をとって攻撃を仕掛ける口実に、独裁者の一族支配をあげるからだ

アメリカのメディアは他国を非難する前に、自分の国の閨閥と金融による一族支配の腐敗堕落を見るがよい。太古の野蛮国家そのままだ。 


大統領や閣僚、取り巻きの言葉を論評しながら語られてきたこれまでのアメリカ政治論は、あまりに史実とかけ離れ、平穏な生活を戦場に変えられ、家族を失った人たちへの冒漬である。


広瀬隆 アメリカの保守本流(2003.9) 第三章 保守派のマーチャント・バンカー p145-152より


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参照

テレビ by Svali & おテレビ様 by 林秀彦 + かんぽの宿
http://satehate.exblog.jp/10771005/

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by oninomae | 2009-02-08 11:37 | イルミナティ  

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